子どもたちの涙【1】翔子

わたし…みんなに笑われて…本当は…すごく…くやしかった!くやしかった!

TVドラマ第3話「翼をください」より

子どもたちの涙ほど尊いものは無いように思います。
本稿からは数回に分けて4年3組の「子どもたちの涙」を追っていきますが、概してTVドラマ『みにくいアヒルの子』は子ども心の琴線を非常にうまく表現していて、もとよりその涙には、きっと我々が失いかけている清らかで純粋な何かが込められているのだと気づかされます。それらは単に悲しみだけを表現しているのではなく、子どもたち一人ひとりの内に秘められた本当の感情が、思わずあふれ出た結果なのでしょう。実は作中の“涙”のシーンには当時新進気鋭の子役たちが多く配されているのですが、彼女たちの演技が本当に光っていて、改めてドラマの脚本や演出に脱帽してしまいます(もちろん、感じ方は人それぞれですが…)。

今回取り上げる第3話でガア助は、音楽室にこもった美和子率いる“反・ガア助組”(と仮に呼びます)に「まねっこじゃねえ、自分で考えた自分の言葉で言ってくれ!」と強く迫ります(どれも似たような作文を「なんだこりゃ!」と地面に放り投げてしまいます)。一般的に言って、学校や社会の中では周囲に歩調を合わせていくことが求められ、「自分の言葉で」語ることがいかに難しいか、ガア助先生も我々も重々分かっているはずです。その狭間で、あえてガア助は子どもたちに本当の「心」とは何かを問おうとします。結果的に、彼ら・彼女らにとって涙を流す行為とは―誤解を恐れずに言えば、自らを開放し本当の自分と向き合うためのいわば“通過儀礼”のようなものではないでしょうか。
では、具体的に「わたしは4年3組辞めたくない!」というセリフに始まる横沢翔子の場面を見てみましょう。このセリフは石原美和子の「私たち、4年3組を辞めました!」(第2話)と対をなしているわけですが、“反・ガア助組”に本当の気持ちを伝えられずにいた翔子を支えたのは、自信を失っていた彼女に真正面から向かい合ってくれたガア助の存在でした。「夢を持ってるとな…人は強くなれるんだ。」、そんな彼の言葉を思い出しながら、翔子は勇気を出して美和子たちに自分の考えを訴えかけます。それは一方で、日ごろ何気なく接していたり声をかけている教師の言動が、子どもたちの決断に大きく左右するのだという見方もできるでしょう。どんな先生であれ、それほど教師の責任は大きいのです。

音楽室という密室で、先生の批判や悪口に勤しんでいた“反・ガア助組”に、翔子が「平泉先生のこと…」と相談を持ちかけると美和子がぎょっとするシーンがあります。つまり、勘の良い美和子は気づいているのです―自分たちの行動の違和感と翔子が異なる考えを持っていることに。こういった構図は、美和子の蔑むようにガア助を見る視線と対照的に、翔子のガア助を見つめる好奇なまなざしというようにドラマの早い段階(第2話)から仕組まれており、この翔子がクラスの雰囲気を好転するキーパーソンとして描かれていることが分かります(第3話最後の「先生!ただいま!」というセリフに結実しています)。
翔子は、ミュージカルに憧れる夢を真剣に聞いてくれたガア助との出来事を、涙を落としながら語り始めます。その姿が演技を超えて、本当に我々の心を打つのです。クラスにたった一人でも教師の信念が届いているという事実は、ガア助にとってみれば非常に幸せなことでしょう。「わたし…平泉先生はヤな先生じゃないと思う!」―翔子が心の底からそう叫んだ時、他の多くの子どもたちも堪えきれず泣き始めるのです(そこが“反・ガア助組”の均衡が崩れる瞬間です)。冒頭で引用した「わたし…みんなに笑われて…本当は…すごく…くやしかった!くやしかった!」という叫びは、翔子が“本当の自分”になれた尊い瞬間だと言えます。同時に、校庭から一人、担任としての想いを訴え続けていた玩助の声は、翔子を通して4年3組の心にようやく伝播したのでした。美和子を除いては…。
第3話の最後には、かたくなに心を閉ざす美和子だけが孤立し、一人学校を去っていく様子が描かれています。玩助の使命は、あるいは4年3組の核はむしろ“美和子”の方なのです。次回は、その美和子の涙について考えていきたいと思います。

(【2】へ続く)

❀翔子(子役・大野紋香)の演技は真に迫っていて本当に感動的です。実は、このシーンの撮影秘話が、みにくいアヒルの子スタッフ編『みにくいアヒルの子 ガァ助とその仲間たち』(1996年)に、ドラマのプロデューサー・小林義和さんのインタビューとして記載されているので紹介しておきます。小林さんは子どもたち(子役たち)のドラマでの重要性や可能性に触れつつ、「三話で翔子が音楽室で「私は4年3組辞めたくない」って演説するんですけど、翔子も涙ながらにいい芝居してて、その時、周りの女の子たちも翔子につられて泣き出しちゃうワケですよ。だけど、カットがかかってOKになってもみんな泣き止まなくなっちゃって、その後の芝居が出来なくなっちゃった。で、彼女たちを一緒にしとくと、また泣き出しちゃうんで、30分以上ですかね、隔離して……(笑)。」と語られています。大野紋香さんの“迫真”の演技を裏付ける貴重な証言ですね!それと、実は子役としての大野さんはドラマ撮影当時が中学校2年生で、多くの子役が小学校4年生~6年生だったことを考えると、一番年長なんですよね(第3話の筋の通った演技に、妙に納得してしまう管理人でした)。

※引用図版の出典:
VHS『みにくいアヒルの子1』(1996年、日本コロムビア)
第3話「翼をください」のワンシーンより。

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