子どもたちの涙【2】美和子

以前のブログで、『みにくいアヒルの子』には、石原美和子に対して平泉玩助がどのように信頼関係を築いていくか(裏を返せば、美和子がどのように心を開いていくか)という観点があると言いましたが、このように二人の向かい合う写真を並べてみると、改めて実感します。
4年3組の中で最も気が強い美和子は、平泉玩助が担任として4年3組に受け入れられ、クラスが一致団結するために必要なキーパーソンなのです。ガア助はそれを本能的にも分かっていて、美和子の帰り道にわざわざ待ち伏せしてまで彼女と対峙しています。

第3話の終了間際であるこのシーンは、孤立した美和子が放課後の学校を一人去り、涙を落としながら街をさまよい、帰り道の歩道橋でガア助と邂逅する場面。
本当は、美和子のどんなシーンを切り取っても重要過ぎるほどで、贔屓目に見ても子役であった小出由華さんの演技は天才的であると思います。この二人の口を横に結んだ“表情”、向かい合う“距離感”、見つめ合う“間”が何とも絶妙ですが、彼女の表情は子どもの繊細な心の内を見事に表現しています。北海道から赴任してきた平泉玩助には初めから敵意をむき出し、彼の型破りな言動全てが気に入らない…。自分たちの学校生活をおびやかされるような気もしていたのでしょう。クラスの多くの女子たちも、この新しい先生を信頼していいかどうか分からず、美和子は“平泉先生を嫌いなグループ”を作り出し、大きくまとまろうとしました。その均衡を破いたのが前回見た翔子だったわけですが、美和子としては自分が牽引してきた仲間たちが瞬く間に離れ離れになり、特に仲の良かった片瀬優子、大川弘美まで4年3組に戻ってしまえば、強がって学校を出てしまったけれど寂しくて孤独だったに違いありません。彼女の平泉先生に対する反発の背景には、本当は自分自身のことを真っ先に認めてもらいたかった気持ちが人一倍あったのでしょう―彼女はクラスの中でも特に強いバイタリティやリーダー性、鋭敏な感性の持ち主なのですから。

ガア助は、彼女のそのような気持ちを察していたからこそ、彼にしては珍しく“茶化さず”に真剣なまなざしで美和子を見つめたのでしょう。そして、初めに「邂逅」(思わず出会う)という言葉を使いましたが、美和子の表情には“本当は心のどこかで平泉先生を待っていたのかもしれない”という安堵感も込められているように思います。否定、反発、怒り、悲しみ、プライド、孤独…そのような彼女の曖昧で複雑な感情がある一方、素直にガア助へ心を預けたいような預けたくないような、寄りかかりたいような寄りかかりたくないような、負けを認めてしまうようなそうでないようなと心は揺れ動き、同時に教師としてのガア助は子どもたちの柔らかい感情を柔らかいまま受け止めようとしています。美和子が最後に落とした数滴の涙とガア助への視線をは、両者のそういった緊張関係の中でこそ生まれたのです。
この後、ガア助はすぐに解決を求めようとしません。それどころか、美和子の作文『私が4年3組を辞めた理由』に「お前、作文書くのうまいな。マジで感心したよ」と花丸をつけ返却します。このあたりはさすがの教師というか、ガア助が少し上手なのですね。

美和子がガア助に心開くまでは第4話を待たなければなりませんが、この二人の関係性はドラマの最後まで重要な要素として引き続き描写されます。それはまたどこかで触れたいと思いますが、『みにくいアヒルの子』を何度も見れば見るほど、美和子の存在は大きく感じられます。東京に赴任してきたガア助にとって、美和子のような子どもに出会えてとても幸せだったと思うのです。最終話で美和子がガア助に手渡す「先生の通知表」を思い浮かべれば、それはなんとも確信に変わるでしょう。

(【3】へ続く)

❀北川昌弘、小松克彦、高倉文紀『TVドラマ女優名鑑’97』(1996年)によれば、子役・小出由華の演技について「『グッドモーニング』などでその片鱗を見せていた“女優・由華ちゃん”の素質が、『みにくいアヒルの子』で開花した。天真爛漫な“おきらくごくらく”娘だったあのルーガちゃんがすっかり大人っぽくなって、しっとりとした演技さえ見せるようになったのを見てビックリした人も、多いはずだ。」と評価されています。前回少し述べたように、『みにくいアヒルの子』には新進気鋭の子役たち(ジュニア・アイドル、チャイドル、美少女タレント)が多く起用されており、1992年よりウゴウゴルーガで注目されていた「ルーガちゃん」こと小出由華もその一人だったのです。1990年代より安達祐実を筆頭にして、ドラマやCM、バラエティと子役たちの活躍は目覚ましくなり、『みにくいアヒルの子』では他に片瀬優子(浜丘麻矢)、大川弘美(大村彩子)、鈴本梨花(末永遥)、横沢翔子(大野紋香)が代表格として挙げられます。なお、この話は、いつか改めてブログでまとめたいと思っています。

※引用図版の出典:
VHS『みにくいアヒルの子1』(1996年、日本コロムビア) 
第3話「翼をください」のワンシーンより。

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